Auf Wiedersehen Maedchen






ラグナの名義で予約したレストランは高層ビルの最上階にあるお店で、
世界でもトップレベルといわれる有名なところだったらしい。
いらっしゃいませ、と出迎えるボーイはすごく笑顔が素敵で、どうぞと促す仕草も洗練されててカッコよかった。
照明が抑えられたフロアには、各テーブルに備えられたロウソクの灯りだけが幻想的に輝いている。
そして案内された席からは窓一面に広がる夜の摩天楼。
視界を埋め尽くす人工の星は宇宙のものと比べて暖かい。

「ところで足は大丈夫かネーナ?ヒールが高くて歩きづらいだろう」
「ううん!全然平気!」
「んなこと言って、帰りに歩けなくなったって知らねぇぞ」
「いいもん。ヨハン兄におんぶしてもらうから」

あたしはラグナから餞別で貰った白いワンピースを着て、おそろいの白い靴を履いた。
ウエストを絞って広がるスカートがすごく可愛くて、鏡の前で何回もうっとりとなった。
ヨハン兄もミハ兄も、その夜はかっちりとした黒いスーツを着ていた。
いつもの服でも、パイロットスーツでもない兄たちを見るのは久しぶり。
二人で並ぶ姿は、やっぱりさっきのボーイなんかじゃ敵わないくらいカッコよくって、
そんな素敵な二人の兄に囲まれることを、あたしはすごく誇らしく思った。

「ったく、こんなお上品な所なのかよ。息が詰まるぜ」
「そういうなミハエル。今日は記念なんだから、これくらいしなくては」

慣れない雰囲気にミハ兄がぼやく。
こんなお洒落なレストラン、あたし達には縁がない。
でも今日は特別。特別なのだ。

「そうだよミハ兄。こんなに綺麗なレストラン滅多にこれないんだからさ」
「では次は、ネーナが結婚するときかな?」

ヨハン兄の妙に真剣な物言いに、あたしはついおかしくて噴出してしまった。
その様子を見てなぜかミハ兄が焦りだす。

「何がおかしいんだよネーナ?あ、お前まさかもう男がいるとかじゃねぇだろうな!?」
「なんだミハエル。ネーナが結婚するなんて幸せなことじゃないか」
「だってそんな!まだコイツには早いだろう!」
「幸せは早い方が良いじゃないか」
「っ!あのなぁ兄貴!!」
「大丈夫だよ二人とも。それにネーナ、ヨハン兄よりかっこいい人じゃないと結婚しないから」
「おいネーナそれ意味だよっ!」
「ヨハン兄の方がミハ兄よりかっこいいって話!」

やがてテーブルにはお酒が運ばれてくる。
ミハ兄と違って、普段はお酒を飲まないヨハン兄も今日は特別みたい。
あたしはお酒は飲めないので、別の飲み物を頼もうとした。
するとヨハン兄はあたしを手で制し、ボーイに告げる。

「すみませんが、グラスをもう一つ」
「でもヨハン兄、あたしお酒は・・・」
「一杯だけ。特別にな」
「やったじゃん、ネーナ」

運ばれてきたグラスにゆっくりとワインが注がれる。
満たされたそれを受け取って顔の前に掲げる。
お酒を飲むのはこれが初めて。
グラスの中の泡と同じように胸が弾ける。
あたしが兄たちと一緒になれたような気がした。


「世界の変革のために」
「武力介入なんざとっとと終わらせて、またここで祝杯あげようぜ」
「頑張ろうね!ヨハン兄、ミハ兄!」


『乾杯』


初めて口にしたアルコールは、正直あんまり美味しくは感じなかった。
けれどこれから始まる世界の変革を前に、あたしは期待に胸を膨らませていた。
ソレスタルビーイングなんて生温い。
これからの世界はあたし達が創る。
どんな敵も恐くなんか無かった。
三人いれば、できないことなんて一つもないのだ。

綺麗な服を着て。
料理は最高に美味しくって。
素敵な夜景と、明日から変わる世界と。
なにより大好きな二人の兄がいて。
あたしはこれ以上無いくらいの幸せを噛みしめていた。






それがみんなで囲んだ、最期のちゃんとした食事だったなんて。
そのときあたしは考えもしなかった。













在りし日のトリニティ兄妹。
武力介入前夜に身内壮行会をする兄妹。
ネーナが好きです。
ソレスタメンバーとちがってトリニティは苦労とかトラウマがなさそう・・・
とか最初は思ってたんだけど、やっぱりそこはマイスターだから。
恋愛とかお洒落とか普通の女の子としての楽しみは制限されてたんじゃないかなぁ。
ネーナ一人残していくとか、兄さんたちは無念で仕方ないだろうなぁ。
でも生き残ってよかったネーナ。
生きてればきっといいことあるさ。

タイトルはドイツ語。「さよなら、少女」
独語勉強してないからあってるかは微妙。