乳固形分20%以上、乳脂肪分10%以上を含む氷菓。
そんな、どこにでもあるような一般的な甘味を食べたことがないと。
このヴェーダの申し子が言うものだから。
ついつい与えてしまいたくなるのが人の心だろう。
アイスクリームのある風景
器から削り取られた白い欠片が小さな銀のスプーンで口に運ばれてゆく。
「美味い?」
「冷たいです」
「でも嫌いじゃないだろ」
そもそも食べ物に対する関心が薄いティエリアが、積極的に口に入れるのだ。
これは、かなり好き、の部類に入れて間違いはない。
「ええ。甘いです」
僅かばかり口角をあがる。
笑顔、と呼ぶにはあまりにも一瞬。
空気に触れる瞬間には溶け出してしまうが、でも確かに存在する事実。
口内から出てきたスプーンが溶けたバニラとティエリアの唾液で鈍く光る。
そしてまた口の中に消えてゆく。
ああ今キスしたら甘いのかなぁ、なんて不埒なことを考えていたらもうたまらなくなってきて、
次の瞬間には声に出してしまっていた。
「ひとくち、くれよ」と。
意味がわからないといった様子で、ティエリアの眉が寄る。
「まだ冷凍庫にあるでしょう?」
「ちがうちがう、それじゃなくて」
こっち。
遠まわしなキスのおねだりは結局言葉にならなかった。
顎を掴んで持ち上げて一気に唇を塞ぐ。
思ったとおり、アイスクリームのせいで唇は冷たい。
舌先で歯の裏側をなぞる。
微かなバニラの味が、いつもとは比べられないほど甘い。
「っ・・・・はぁ・・・、ぁ・・・・・ふ」
じゅるり、と音を立てながらキスをするうちに口内の温度が変わってゆくのを感じる。
熱く、熱く、だんだん熱く。
重なる場所から溶けてゆく。
溶けた甘い滴は、薬のように全身に巡る。
からん、とスプーンが床に落ちる音がした。
そこでやっと唇を解放する。
顔を真っ赤にして酸素を吸うティエリア。
左手にはアイスクリームの器がまだ握られていた。
溶けた周囲を右手で掬う。
ぺろり。
目の前で白い液体のついた指を舐める。
なるべくいやらしく、その赤い瞳に映るように。
「続き、していい?」
「・・・ッ、あなたって人は!!」
24世紀になってもアイスクリームがなくなりませんように!