花に埋もれて消えてしまいそうだったから



あの時あんたの腕を掴んだ理由が
そんな幻想みたいなことであったとしても








Autumn tints






「大分早いが、今日はここで休もう
明日は山越えになるだろうから少しでも英気を養うのがいいじゃろう」


ガンダルフの提案により旅の仲間の一日は暮れ始める
荷物を降ろし野営の準備
水を汲み、火をおこし、長い旅の疲れを少しでも癒す
サムが夕食を作るまでは実質的な自由時間
それぞれが思い思いの時を過ごす

小高い丘を取り囲むように、花の絨毯は途切れることなく広がっている

旅の仲間が今日の野営場所として選んだのは花畑の真ん中
丘からは見渡しがきくしナズグルたちが襲ってきても花の中に隠れてしまえば・・・ということだ。
荒野を取り巻く花は夕日をうけてオレンジに染まっている ピピンとメリーは花の中ではしゃいでいるし
レゴラスとギムリもなんだかんだで混じっている



微笑ましい光景の反対側に目を向けたのは単なる偶然でしかなかったのかもしれない




「ボロミア?」





独りオレンジの野に立つ姿が
なんだか何処かへ行ってしまうような気がして



咄嗟に走って駆け寄って
おもわずその腕を掴んだ




「アラゴルン?」


ボロミアは驚いたように振り返った


「どうしたんだ急に?」 「いや・・・別に、それより・・・」


「これを見に来ただけさ」



そういってボロミアは目の前の茎を一本手折った





パキリ





辺りの草の匂いが濃くなった気がした










「ゴンドールには咲かない花だ」


「あんたに植物鑑賞の趣味があるとは」


「おかしいか?」


「そんなことはないさ、綺麗なものだろう?」


「ああ」


「毎年この時期に咲いているが、こんなにたくさんは私も見たことがない」


「エルフの世界に咲く花ではないだろう?」


「そうだ、この花は   荒野に咲く花だよ」





短い会話はそれ以上続かない
心地よい沈黙の中、アラゴルンは隣に人の横顔を見る


くるくると花を指で弄ぶ
その表情は実に穏やかだ




気がつけば


見とれていた




「ボロミア、いい事を教えようか」


「なんだ?」


「これの花言葉はな――」




それは一瞬




自分より少し高い彼を強く引き寄せ小さな声でささやく





捧げる心







それは偽りのない自分の本心








新しい表情を発見したとか、遠い昔の面影をみたとか
そういうことではなくて

ただ
隣に佇む彼の存在がなぜだか急に愛しくなった


だからこそ
自分はこの花の持つ隠された意味を彼と共有しようとしたのかもしれない




「貴方という人は・・・」



突然のアラゴルンのアクションにボロミアはあっけにとられているようだった
その証拠に顔が赤い



「いつもそうやって私を揺さぶるのだから」







と、ボロミアは突然アラゴルンを引き寄せそのまま地面に押し倒す
くるであろう衝撃を予想し目をつぶったが、なにもなかった
自分を包む体温とボロミアのしてやったり、という笑顔以外は





「花に言わせずとも、私の心は貴方のものなのに」




甘い台詞が胸に染みるのは彼のくれたものだからこそ
この先の展開は読めるがそれでも形ばかりの抵抗をする


「随分積極的なのだな」


「けしかけたのは貴方だアラゴルン」


「こんなところでやるのか?」






「なぁに・・・」





その笑顔はますます深くなり







「花が隠してくれるさ」










深い口付けは風が吹くのと同時に唇に落とされた


















「アラゴルーン!!ボロミアー!!」









「呼ばれてしまったな」


「なんだ、せっかくこれからだという時に」


「これくらいの距離はレゴラスにとってあっても無いものだろうさ」


「だが・・・!!」


「大丈夫、後で続きをすればいいだけだろう?」



けしかけたのが自分だというのなら、とことんその気にさせてやろう
自分だってここで止められるのは本意ではないのだから


「楽しみにしておけ」






しっかりと目を見つめながら笑いかけ
仲間のところへ引き返してゆく
後ろでボロミアがどんな顔をしているかはあえて見ないことにした









あとは白い花が揺れるだけ







END





出てくるお花は完璧な醸造。
本当はコスモス使おうと思ったんだけど花言葉が「少女の純愛」とかだったので止めました
おっさんにそれは反則(もとい犯罪)だー!!と思いまして・・・。
エルフ語にするとなんたら〜とかも考えていただけに残念です。